露口と魚を食った。
私は魚を上手に食べることができない。
岐阜県は海がなく、昭和50年生まれの私でさえ、食卓に上がるのは肉や野菜が圧倒的に多く、魚もあるが干物率が高かった。また、私の両親の教育方針で細かい躾をしないことになっていたため、「魚を綺麗に食べるのは費用対効果悪い」みたいな感じで、どんどん私は魚を綺麗に食べなくなった。蟹やエビにいたっては、「手が汚れる」という理由で全く手を付けなかった。これが大沢香織、23歳(くらい)である。
露口くんと出会ってしばらくしてから、彼が焼き魚を食べるところを見た。彼はまず、箸で魚全体を押さえ、その後半身を綺麗に取っていき、内臓周りをわずかに残して食べた後、ひっくり返してまた身を食べ、魚の頭部分(人間で言うと眉間?)部分も綺麗に食べ、最後に魚の骨を半分に折って、お皿の端にまとめた。
一連の所作が、ぼーっと観てしまうほどに綺麗だった。お皿のすみに置かれた魚の頭と骨を見たら、「なぜ綺麗に魚を食べなくてはならないのか?」「マナー?教養?自由?」などという陳腐な説明は、一切いらなかった。すべきことだ。そうとしか思えない。
それから私は彼の指導のもとにより魚をそれなりに綺麗に食べられるようになった。
----
露口くんが作った成果物に対して正当な評価してくださった方からのご紹介でお問い合わせを頂いた会社へ訪問した。
説明は殆どなしだ。何故なら「コレと同じように」「コレを少しなおしてこのように」で通じたから。
そこに露口くんはいないし、既に彼は会社員だが、露口くんの成果物はものすごい存在感と共に、打ち合わせ場所にいた。
----
普段の夫は口下手だし何を考えているかいまいちわからない。
しかし、私とは違う時間軸で作られた成果物が突然ドン、と私の目の前にすごい存在感で出てくる時がある。
魚の食べ方も、露口くんがフリー時代に作ったソースコードもそうだ。
彼は説明を一切しない。強制もしない。ただ成果物を見せる。
今の時代には大変生きづらいであろうスタンスだけど、私はこういう人と結婚してよかったと思うし、彼の能力を最大限引き出すよう努力したいと思う。
